「つくる人をつくる」あなたをアップデートするクリエイティブAIエンターテイメントマガジン「AICU Magazine Vol.6」、KindleUnlimitedで無料配信中です。特集は「Entertainment x AI」。東京ゲームショウで展示された近未来のAI技術、キャラクターデザイン、チャットボット、科学者の先端研究、そして、ゲームAIの研究開発を長年リードされてきた、三宅陽一郎氏(@miyayou)をゲストライターにお迎えして構成しています。
ゲームAI開発者・研究者の三宅陽一郎氏に「過去のAI関連著作についてご解説をお願いしたい」という依頼をいたしました。その寄稿をマガジン及びnoteメンバー向けに、特別配信いたします(期間限定有料)。
「著作を振り返って」三宅陽一郎
(ゲームAI開発者・研究者)
私は2004年から現在(2024年)まで20年程、デジタルゲームの人工知能を開発・研究している。その間、特に2016年以降に単著として11冊を出版させて頂いた。これは出版社様に機会を頂いた賜物で感謝しかない。しかし、同時に反省する点も多く、ここでは自分の出版の歴史を振り返って考察していきたい。
自分ゲーム産業に入った2004年という時期は世界的にもゲームAIという分野が徐々に形成されつつある時期であった。プラットフォームで言えば『PlayStation3』や『Xbox360』の世代にあたる。この世代からゲームの人工知能は次第に本格的なものになっていく。本格的とは学術的な人工知能の流れと同期する、或いはその先に行く、ということである。こういった人工知能の知見をまとめようと思っても、なかなかまとめられなかったのは、私の何が欠如していたせいだろうか。おそらく実際のゲームの実例のなさと、ゲームAIの進化の速さと、私の理論的な整備の甘さゆえだろう。なんとか最初にまとめた本は『デジタルゲームの教科書』(共著)(2010年5月 ソフトバンク クリエイティブ)であるが、これは松井悠さんの編集のもと、当時のIGDA日本のメンバーを中心に総出でゲームやその周辺の事情をまとめた本である。現在となっては歴史的価値の高いものである。
『デジタルゲームの技術』(共著)(2011年7月 ソフトバンク クリエイティブ)はインタビュー集であり、これも現在となっては歴史的価値の高いものである。
2016年になってようやく単著を為すことができた。『人工知能の作り方』(2016年12月 技術評論社)である。この本はいまだゲームAIという分野の全体的体系を捉えきれていないが、要素は出そろっており本質を捉えてはいる。また案外、この本は今でも感想を頂くことが多く、柔軟で入りやすい内容になっていると思われる。
ゲームAI技術の体系の全体像としては『ゲームAI技術入門』(2019年9月 技術評論社)でより詳細にまとめられている。自分なりにデジタルゲームAIという分野を大きな体系としてまとめたつもりである。入門書として書いたつもりであるが、かなり構えた本となっているので、取りこぼしのない本格書として、また大学の教科書として採用できるレベルで書いている。
『FINAL FANTASY XV の人工知能』(2019年5月ボーンデジタル社)は実際のタイトルに即したゲームAI技術の書籍であり、まさに実践の書である。また研究内容を踏まえた、2024年現在の全体像は『スクウェア・エニックスのAI』(2024年7月 ボーンデジタル社)にまとめられている。
この4冊の書籍を読むと、ゲームAIの最新にして深い知識が得られるはずである。また学術的なゲームAI(囲碁、将棋、トランプ)とデジタルゲームAIの分野は技術的には地続きな一つの分野であって、これを統一的に語ることは産業としても学術としても意味のあることである。そういった本を作ることができれば、学生にとっても、この分野を一つの大地のように捉えることができるだろう。
『ゲーム情報学概論- ゲームを切り拓く人工知能』(2018年4月 コロナ社)は伊藤先生からお声が頂き、保木先生と共に三人で書き上げた共著である。大学の教科書として執筆しているので、とても良くまとまった内容となったと思う。ただよく考えると将棋や囲碁の延長として、デジタルゲームには「戦略ゲーム」というリアルタイムにロジカルな思考を行う分野がある。そして、この分野には80年代から膨大な実例と研究があり、それを一冊の書籍としてまとめたいと思っていた。そうして編まれたのが『戦略ゲームAI解体新書』(2021年10月 翔泳社)である。実例が多く、理論も体系立てられていて、プロにも学生様にも楽しく読んで頂ける書籍になったと思う。
『高校生のための ゲームで考える人工知能』(2018年3月, 筑摩書房)は山本氏との共著であり、新書形式で優しくゲームAI分野の導入が書かれている。最初の自分の原稿はがちがちでわかりにくかったが、山本先生の卓越した文才によって柔らかくわかりやすくなった。山本先生とご一緒できて光栄であった。
わかりやすくという意味では以前、慶應大学SFCでボードゲームを使った子供向け(主に小学生)のワークショップを行ったことがあった。これはカードを配置して駒を動かすゲームAIプログラミングの形式である。東京書籍様の多大なご尽力を得て『ボードゲームでわかる! コンピュータと人工知能のしくみ』(2022年11月 東京書籍)として出版することができた。なかなか座学だけではゲームAIを身に着けるのは難しい。本ボードゲームを通じてコンピュータの原理、プログラミングの原理、AIの原理を体得することができるはずである。
デジタルゲームの人工知能という分野の特徴は、人とインタラクションする人工知能を作るということ、またキャラクターのように身体を持って行動する「知能を持った人工生命」を作り出すということである。そうすると必然的に、知能とは何か、人間とは何か、という問いを持つようになる。問うことが哲学の始まりであり、私は長い間、知能とは何かを問い続け、その都度いったんの結論を出しながら、人工知能を作り上げてきた。しかし、何かを作るには常に足場が必要であり、人工知能の場合はそれが哲学なのである。なぜなら知能とは何かという問いへの暫定的な答え(間違っていてもよい)なしには、知能は作り出せないからだ。そして、その問いは、今のところ果てしない問いである。『人工知能のための哲学塾』(2016年8月 BNN新社)は、そんな知能とは何かという問いを哲学的につきつめた書籍である。
エンジニアや理科系研究者の中には哲学は何の役に立つのだ、という方も多いかもしれない。しかし哲学なしに本来研究はできない。哲学がいらないといいながらも、どんな人もある哲学の中に囲われている。そしてそれに気づかない内は、自分が哲学から自由だと思っているが、それは過去の哲学の上に立っているために自分の立っている大地を意識することがないに過ぎない。新しい領域へ行くのは、新しい哲学が必要である。それはまたロジカルな思考とは違った軌道で歩む研究の途である。『人工知能のための哲学塾』は主に西洋哲学と人工知能の関係を扱った書籍である。さらにここから東洋哲学と人工知能の関係を詳細に示したのが『人工知能のための哲学塾 東洋哲学篇』(2018年4月 BNN新社)である。
この本は玄人受けする本であり、最初の「哲学塾」に飽きたらない読者には、この本は大いに刺激になるだろう。『人工知能のための哲学塾 未来社会篇』(2020年7月 BNN新社)は一緒に登壇した大山氏との共著であり、社会の中におけるAIについて論じている。
第一期哲学塾はここでいったん終了となる。その一つ目の理由は、哲学塾は作るための足場を提供するものであり、ここから実装に向けてアクションを起こす必要があること、二つ目の理由はディープラーニング技術の台頭によって哲学と技術の間隙が大きくなったことにある。つまり哲学がディープラーニング技術に追い付いていない、というところにある。次なる哲学塾のシリーズは生成AI、言語AI、ディープラーニング技術と張り合う哲学を展開するシリーズとなるだろう。『人工知能が「生命」となるとき』(2020年11月 PLANETS)は哲学塾を展開する中で、PLANETS様からお声がけいただきメイルマガジンで2年弱連載させて頂いた論考をまとめたものである。毎月というわけにはいかず一年のはずの連載が延びてしまったが、哲学塾の成果を踏まえて集中した議論ができた。自分としてはとても気に入っている連載の集約である。
2020年は博士論文執筆があり、そこから研究の領域はゲームから都市空間へと広がっていく。デジタルゲームの人工知能の技術は場と状況を創造・支配する技術であり、これを都市空間へと広げていくことについて『人工知能が「生命」となるとき』の執筆を通して構想した。2023年は単著を出すことができなかった原因は、自分の研究不足であろう。しかし、この時期には、人工知能学会誌、ゲンロン、ユリイカ、現代思想などに論考を多数投稿した。この論考群をまとめて出版して頂いたのが『人工知能のうしろから世界をのぞいてみる』(2024年7月 青土社)である。それぞれの章は独立しているので、話題はやや散漫とはいえ、これは自分の思想の軌跡の本として、一本筋が通っているのである。この5冊が哲学的な思索の成果である。
「人工知能と人工知性」(2017年3月 詩想舎)は編集者の神宮司さんのお力で、キーワード解説形式で人工知能の根底にある概念について解説した書籍である。電子版が主体であるが、オンディマンドで紙面としても入手できる。英語版「AI meets Philosophy: how to design the Game AI, iCardbook」(2019年10月SHISOUSHA)も出版させて頂いた。ただ英語の本としてはこの一冊だけで、他に英語圏で出版できていないのは大きな反省点である。
以上、自分の書籍ヒストリーを紹介してきた。それは自分の成果を示すと同時に、いや、それ以上に自分の欠点を如実に示すものである。それが自分にとっての執筆の効用でもある。英語の書籍を出せていないこと、世間一般に広く書籍が行き渡っていないこと、物語を出せていないこと、などは反省の中核であり、この反省を糧にこれから精進・成長していきたい。最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
付録:著作リスト
(単著)
1. 「人工知能のための哲学塾」(単著)2016年8月 BNN新社
2. 「人工知能の作り方」(単著)2016年12月 技術評論社
3. 「人工知能と人工知性」(単著)2017年3月 iCardbook
4. 「なぜ人工知能は人と会話ができるのか」(単著)2017年7月 マイナビ出版
5. 「人工知能のための哲学塾 東洋哲学篇」(単著)2018年4月 BNN新社
6. 「ゲームAI技術入門」(単著)2019年9月 技術評論社
7. AI meets Philosophy: how to design the Game AI, iCardbook, (単著)2019年10月 SHISOUSHA (「人工知能と人工知性」の英語翻訳版)
8. 「人工知能が「生命」となるとき」(単著)2020年11月 PLANETS
9. 「戦略ゲームAI解体新書」(単著)2021年10月 翔泳社
10. 「ボードゲームでわかる! コンピュータと人工知能のしくみ」(単著)2022年11月 東京書籍
11. 「人工知能のうしろから世界をのぞいてみる」(単著)2024年7月 青土社
(共著)
1. 「ゲーム情報学概論- ゲームを切り拓く人工知能」(共著)2018年4月 コロナ社
2. 「デジタルゲームの教科書」(共著)2010年5月 ソフトバンク クリエイティブ
3. 「デジタルゲームの技術」(共著)2011年7月 ソフトバンク クリエイティブ
4. 「絵でわかる人工知能」(共著)2016年9月ソフトバンク クリエイティブ
5. 「人工知能学大事典」(共著)2017年, 共立出版
6. 「高校生のための ゲームで考える人工知能」(共著)2018年3月, 筑摩書房
7. 「ベルクソン『物質と記憶』を再起動する――拡張ベルクソン主義の諸展望」(共著)2018年12月, 書肆心水
8. 「FINAL FANTASY XV の人工知能」(筆頭著者、共著)2019年5月ボーンデジタル社
9. 「AI事典」(共著)2019年12月 近代科学社
10. 「人工知能のための哲学塾 未来社会篇」(共著)2020年7月 BNN新社
11. 「キャラクタアニメーションの数理とシステム – 3次元ゲームにおける身体運動生成と人工知能 -」(共著)2020年7月 コロナ社
12. 「私たちはAIを信頼できるか」(共著)2022年9月 文藝春秋
13. 「人工知能はナイチンゲールの夢を見るか?」(共著)2022年9月 日本看護協会出版会
14. 「ゲームAIの新展開」(共著) 2023年7月 オーム社
15. 「未来社会と「意味」の境界」(共著)2023年8月 勁草書房
16. 「スクウェア・エニックスのAI」(筆頭著者、共著)2024年7月ボーンデジタル社
(監修)
1. 「ゲームプログラマのためのC++」 (監修)2011年12月 ソフトバンク クリエイティブ
2. 「C++のためのAPIデザイン」(監修)2012年11月 ソフトバンク クリエイティブ
3. 「マンガでわかる人工知能」(監修) 2017年7月 池田書店
4. 「マンガでわかる! 楽しく読める人工知能」(監修)2018年6月impress QuickBooks
5. 「最強囲碁AI アルファ碁 解体新書」(監修) 2018年7月 翔泳社
6. 「図解 AIとテクノロジーの話」(監修) 2018年11月, 日本文芸社
7. 「世界設計の方法 ゲーム体験とユーザーインターフェイス」(監修・執筆)雑誌「アイデア」395号,2021年9月,誠文堂新光社
【三宅陽一郎】
1975年生まれ、兵庫県出身。 京都大学総合人間科学部卒業、大阪大学大学院理学研究科修士課程を経て、東京大学大学院工学系研究科 博士課程単位取得満期退学。 博士(工学、東京大学)。 デジタルゲームにおける人工知能の開発・研究に従事し、立教大学大学院人工知能科学研究所特任教授・東京大学生産技術研究所特任教授を務める。
三宅陽一郎さんありがとうございました!
圧倒的な数のAI関連ご著書を一気にご紹介いただきました。
三宅さんの本寄稿は「AICUマガジン Vol.6」に収録されています。
ペーパーバック版もしっかりとした厚みと重みで発売予定です。
最新刊「人工知能と哲学と四つの問い」もイベントが予定されています。
2024/12/10『人工知能と哲学と四つの問い』発刊記念トークライブ
開催日時:2024年12月10日(火)19時30分~
登壇者:三宅陽一郎先生×清田陽司先生×大内孝子さん
この記事の続きはこちらから https://note.com/aicu/n/nd56c0060bde0
Originally published at https://note.com on Nov 9, 2024.